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2008年07月18日 (金) | Edit |
ここは、東京のとあるホテルのメイン・バー。
東京といっても中心部からは、だいぶ外れた山の中なので、
私の自宅がある練馬区からは、車で1時間ほどかかる。

12月の灰色の空は、私の心を凍らせていた。
そろそろこのバーとも、おさらばするかな。
ぼんやりとカウンターの中で客を待っていた。

そこへ、一人の中年女性が入ってきて、目の前に座った。
「シンガポール・スリング」
威厳のある、強い口調で注文した。

私の差し出した、シンガポール・スリングを口にしたその女性は、
いぶかしげに言った。
「あら、いつも飲んでいるのとは、全然違うわ。」
「こちらは、ラッフルズ・ホテルのオリジナル・レシピのものです。」

私はこのレシピにこだわりを持っていたのだけど、
その中年女性の、お口には合わなかったらしい。
半分飲んで、すぐに出て行ってしまった。

30歳ぐらいの男が入ってきた。
カウンターに座るなり、コートも脱がず、
「疲れがとれるような酒がないかな。」
と注文した。

私は、うれしかった。
私はこんな漠然とした注文をする人が好きなんだ。
バーテンダーとしての自尊心をくすぐられるからだ。

彼は、私のことを信用してくれている。

私には自信がある。
あなたのために、最高の酒を出す自信が。
誰もまだ理解はしてくれないが、たしかに私は最高のバーテンダーだ。

私は、彼の前にとっておきの酒を差し出した。
男は、それを一気に飲み干したあと、ふらふらと立ち上がって出て行った。

入れ替わりに、若い女が入ってきた。大学生だろうか?
暗い表情で、カウンターに座った。
彼女は何も注文することもなく、おもむろに、自分の話を始めた。

失恋したばかりで、それを忘れるために、旅をしているのだそうだ。

私は、黙って聞いていた。

彼女は、ここがバーであることに、ふと気がついて、
恥ずかしそうに、女性らしい口調で、
「嫌なことを、ぜ~んぶ忘れてしまえるようなカクテルが飲みたいわ!」
と注文した。

私は、薄いピンク色のカクテルを差し出した。
彼女は、その色にうっとりしながら、飲み干した。

彼女は、また自分のことを一方的に話した後、
重そうな旅行カバンを背負って、店から出て行った。

時計を見ると、AM02:00を過ぎていた。
私は、閉店作業を終えてホテルを出た。

救急車がすれ違い、ホテルの前で止まった。

空を見上げると、昨日とは少しちがう星空が、
暖かく私を見つめていた。


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↑変わったようでも、何も変わっちゃいない人生

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コメント
この記事へのコメント
らっふるずホテルのバーは、ピーナッツの殻をくっちゃぽいしていいんです。
2008/07/18(Fri) 22:56 | URL  | ロドネー #-[ 編集]
何となく好きな雰囲気だなー
救急車は次の伏線?
2008/07/18(Fri) 22:58 | URL  | こうき #-[ 編集]
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